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アジフライと上迷   [むかし噺]

私はアジフライが大好きだ。
そしてこれを食べると必ず思い起こすのは、絶対恩師・上迷のことだ。彼と一緒に居るだけで、幸せに感じることが出来た時間は、怖すぎて、認められたいという欲にだけ支えられていたのだろうか。

私はアジフライが大好きだ。
上高田に住んでいた私と、上落合に住んでいる彼は、毎日いっしょに帰ることになっていたが、アジフライ定食を食べ、次の喫茶店を出て、歩きながらも話すのだけど、話が途切れずに同じ道をお互い送りっこして、行ったり来たり、また、立ち止まって喋る。あの時間は何だったのだろうか。毎日。

アジフライを食べると思い出す、絶対恩師。
上落合から杉並区和田へと引っ越した彼とは、本来、逆方向であるにもかかわらず、しかし毎日おなじことを繰り返した。アジフライが、つけ麺大王になることはなくなったが、交差点の定食屋は変わらなかった。つけ麺大王の2階にある喫茶店には行かなくなったが、深夜営業の喫茶店は限られていた。似たような、薄暗い喫茶店で二人は話をし続けていた。

上迷と二人で過ごした時間は今でも幸せに思う。妻や子どもと過ごす時間とは全く違う幸せ、きっと、認められるという感触なのかも知れない。つまはじきにされてスネてしまっている自分を、立ち上がらせるのに時間をかけてくれていたのだと思う。

定時制高校という、響きとしては暗い存在だが、上迷と過ごした時間は輝いている。とても明るい真っ昼間のような明るい思い出でぎっしり詰まっている。ずっとずっと一緒に居たかったくせに、大学に行くと、全力疾走の生活をしてしまい、疎遠になってしまった。



CIMG8098-1.jpg



私は、毎晩のように400円のアジのフライ定食をご馳走してもらっていた。
上迷のマンションで、よく冷えたマスクメロンを半分に切って、スプーンですくって、二人で食べた。思いっきり贅沢をさせてもらった。必要ないからと、たっくさんビール券をもらった。保護者からの付け届けのたぐいだったのだと思う。

恵まれた金品は多く、しかし、金品で幸せを感じたのではなかった。そのつど、一緒にいて、話をしてもらえたその時間が幸せだった。

いつでも叱られていた。
私を叱るメモもたくさんあった。その端正にまとめられた文章と文字、それですら私には宝物だった。パスポートを入れる引き出しと同じ場所に保管し続けていた。いただいた言葉に、喜んでいた。

去年、ほとんど全てのものを処分した。
断捨離だ。上迷と一緒に作った卒業アルバムも捨てた。ちょっと後悔するかもしれないけれど、メッセージ性のない文字だけ残してある。数年前、上迷が送ってよこした郵パックの宛名書き、これは残してある。思い入れがなく、いつでも捨てられるから取ってある。

上迷はいない。
だから偲ぶことすらできない。それでも、今までと同じように、上迷は私の中にいるのだろう。時々叱られながら、お話をしている。そして、まだ認めてもらえない。もちろん、褒めてなどもらえない。少し、よその人に焼き餅を焼いたりもする。私の中で叱り続ける、優しい母親のような方である。それが我が絶対恩師、上迷なのだ。

そしてとうとう、彼はハードルを下げてはくれなかった。だから、何とか死ぬまでには飛び越えようと思っている。もしかすると彼は、わたし自身だったのかも知れない。

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ファイト! 93

コメント 23

cafelamama

若いころに食べた定食屋のメニューで、思い出すことってありますね。
僕の場合は肉豆腐でした。

>話が途切れずに同じ道をお互い送りっこして、行ったり来たり、また、立ち止まって喋る。あの時間は何だったのだろうか。

まるで恋人同士のようですね。
by cafelamama (2013-04-03 06:52) 

リック

またやられました、お見事な文章です。
by リック (2013-04-03 06:59) 

沈丁花

拝見しながら、昔の同級生を思い出しました。
着る物も一緒…する事も何時も一緒…双子のようだと云われ得意になっていたが〜結婚するまででした…(涙)
遠く離れて連絡を頂いたのは他の友人から訃報の知らせでした〜 彼女は今も心の中で生きています〜(;_;
by 沈丁花 (2013-04-03 07:09) 

hatumi30331

食べ物の思い出って・・・・
情景が浮かぶような物が多いよね〜♪
ステキな思い出とアジフライ!(笑)

ちなみに私もアジフライ大好き!
醤油かけたり・・・ウスターソースかけたりして・・・
食べちゃいます。美味しい!へへ;
by hatumi30331 (2013-04-03 07:40) 

ソニックマイヅル

DSC-HX300を話題にされているのでやってきました。アジフライ私も大好きでございます。^^;
by ソニックマイヅル (2013-04-03 08:46) 

ryuyokaonhachioj

アジフライが何となく、美味しくて好きに
なったですね。
by ryuyokaonhachioj (2013-04-03 15:24) 

あるいる

アジフライ好物です。
一膳飯屋に入ると、マカロニサラダと一緒に必ずと言っていいほどに食います。
絶対恩師を超えることは至難の業かもしれませんね。
ハードルを超えようにも、絶対恩師とは距離もコースもレーンも違うし、
なにより一人で先にゴールを超えて、高見の見物中なのですから。
ただ、ものごとは順送りのような気もするのです。
今度はtommy88 さんのやりかたで、誰かにアジフライをご馳走する順番が回ってきているのかもしれません。
残念ながら、アジフライに喰らいついてくる奴がいるかどうかはわかりません。
生意気、すいません。
by あるいる (2013-04-03 16:44) 

gillman

ウチのそばにやっちゃ場があるんですが、そこの場外食堂のイワシのフライがほっこりとして絶品なんですが、最初に行ったとき「このアジフライ最高」と言ったら、おカミさんが笑顔で「イワシね」って…、でも美味かったなぁ。
by gillman (2013-04-03 17:10) 

みぃにゃん

記事拝見して私も若くしてバイク事故で亡くなった友人の事思い出しました。
by みぃにゃん (2013-04-03 21:46) 

muk

すばらしいお話です。
by muk (2013-04-04 04:32) 

tommy88

cafelamama 様
いちどオレってホモなのかなと考えたけれど、答えはノーだった。
年の差12歳。同じ午年でウマが合ったのかも知れない。
始めは怖かったし、いちいちウルサイ人だと思った。
しかし気がつけば彼の世界に引きずり込まれていた。
知的欲求が刺激され、それを満たしたくなる力を湧かせる人だった。
師弟愛という世界でもない。
親友と言うほど私の存在は大きくはなかった。
どちらかというと「マブだち」が近いのではないだろうか。
それでいて、母のような慈愛を感じさせる人だった。
いや、やっぱり、言葉を吟味していけば、「恋人」が最も近いのかな。
公言するには憚れる表現だが、まるで恋人だったんだなと思う。

大学で学んだことよりも、上迷と毎日語った、語られた話で学んだことの方が、圧倒的に深く、大きく、強く、大量だった。本物だった。本物を愛する人だった。「絶対恩師」以外に表現のしようがない。もちろん私の心も「愛」という形であったのだと思う。恋人だったのかも知れない。願望だったのかも知れない。・・・映画化はヴィスコンティに委ねよう。
by tommy88 (2013-04-04 07:31) 

tommy88

リック 様
ものすごい人でした、絶対恩師。
時間ができたら、彼のことは掘り下げようと思っています。
by tommy88 (2013-04-04 07:33) 

tommy88

沈丁花 様
生活の場所とスタイルが変われば疎遠になってしまうことがあって、生きると言うことはそういうことだと思うのですが、やっぱり、もっと時間を割く努力をすべきだったと、後悔してしまうのでした。
by tommy88 (2013-04-04 07:35) 

tommy88

hatumi30331 様
どうしてアジフライはあんなに美味しいのだろうか。
ちょっぴりマヨネーズとウスターソースかな。
意外に、冷やご飯でも美味しいんですよね。
by tommy88 (2013-04-04 07:37) 

tommy88

ソニックマイヅル 様
私は去年の4月、修学旅行用に「α57」を買いました。TAMRONの18-270mmレンズをつけて買いました。9月に水泳の学生選手権でビデオとして使いました。驚きの鮮明画像でした。ただ、娘がスタートするその飛び込む様子とか、ゴールにタッチする瞬間を写せないもどかしさがありました。

ソニックマイヅル様の先月末の記事で「DSC-HX300」のことを拝読し、信号の写真を見た時、興味津々で、「何ができるか」を調べました。ほ、ほしい。欲しい。動画撮影をしながらスナップショットも可能となれば、私のお悩みが一挙に解決。これだ、これ、これこれ。しかも、1200㎜に匹敵とな。冗談じゃござんせん。うううううう、悩むぅ。ママに怒られるぅ。そんなお金どこにあるの。

迷っているのです。悩んでいるのです。来週には、日本選手権で次女と三女が泳ぎます。行きのフェリーも帰りの飛行機も、宿泊ホテルも、予選の入場券も、決勝の指定席券も、全て手配済み。「α57」を携えて乗り込むつもりでしたが、ここになって、どうしよう。どうしよう。どうしよう。おそらく、買っちゃうかな。まずは、ヨドバシに行くことが先決。あれば買いだ。
by tommy88 (2013-04-04 07:52) 

tommy88

ryuyokaonhachioj 様
貧乏人の知恵かも知れないけれど、アジフライは単純に美味しいと思えます。高いお金を出せばもっと美味しいものがあるとしても、やっぱりアジフライが美味しいと思えるのです。
by tommy88 (2013-04-04 07:55) 

tommy88

あるいる 様
順送りは理解できます。
ただ、この顔で、この言動で、子どもたちは私に話しかけられるだけで震えてしまいます。ワルにも舐められないで済むから良いのですが、生徒は寄りつきません。もうすぐ定年だから、いまさら迎合しても始まらず、これでいっか、と妥協して、眉間に皺を寄せています。もしかすると、だから、子どもたちは寄りつかないのかも知れない。ハードルを下げない所だけは、上迷に似通っています。本物の中身が私には不足していて、スタイルは変わらないかな。生徒は誘っても、たこ焼きを食いには来ないかもね。上迷とのように、多く深く語り合う時間が乏しすぎるので、おそらく距離は埋まりません。
by tommy88 (2013-04-04 08:01) 

tommy88

gillman 様
ほっこり感があれば、イワシでもアジでもフライは美味しいです。
誰が考えたんだろうって、いつも思います。
「ほっこり」を食べるんですよね。
by tommy88 (2013-04-04 08:02) 

tommy88

みぃにゃん 様
学生時代に、下山くんがバイク事故で亡くなり、市川の彼のアパートを起点にして、麻雀と湯豆腐をしまくったことを、いま思い出しました。人生の隙間に隠れがちなことでも、大切な人の思い出は忘れないようにしたいと思います。
by tommy88 (2013-04-04 08:05) 

tommy88

muk 様
背伸びして彼とは付き合っていました。
わたし自身が大きく成長できたのは彼のおかげです。
次の世代にそのバトンを受け継いで貰わねばと思っています。
by tommy88 (2013-04-04 08:06) 

Lonesome社っ長ょぉ〜

フライなのに何故かカロリー低めの救世主、アジフライ。
ウスターソースとの相性が551に勝るとも劣らないくらい抜群な、アジフライ。
スーパーの惣菜コーナーの牢名主、アジフライ。
でも、ちょっと欲張って尻尾の噛み所を間違えると、前歯に骨が挟まって
しまう、そんな憎いヤツです。
by Lonesome社っ長ょぉ〜 (2013-04-04 20:34) 

tommy88

Lonesome社っ長ょぉ〜 様
ツー
尻尾のギリギリに落とし穴のトンガリがありますね。
これは用心しなければいけない危険物。
アジフライ、おいしいねぇ~。
アジの開きは朝ご飯に。
アジフライは、晩ご飯かな、昼ご飯かな。
by tommy88 (2013-04-06 11:58) 

namie

はじめまして。
tommy88さま

アジフライに「ソース」がダメって言ってるわけ
ではないのですが・・・。
(初めて、コメントするのにそんな失礼なことが
あるわけないです。)
ただ・・・、その大好きなアジフライを今度
いただかれる時に「生姜醤油」で1度お願い
したいのですよね。

それで、感想を記事にしていただけたら、
嬉しいです。


by namie (2013-07-20 21:25) 

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