新生オレの出発 [日常]
およそ2か月間の、妻との同棲生活を終えた。
妻のリハビリが完了し、少しずつ社会復帰をすると言う。
再び2拠点生活が始まった。
ちょっと寂しいよと言うと、おバカさんねと妻が笑う。
やっぱり大好きなんだよと言うと、なに言ってんのと妻が笑う。
そういう他人が見たら、くだらないような瞬間も、いとおしい。
現役時代に単身赴任は断った。
余生の時代に入り、風変わりな、エラそうにしない夫になる。
そのためにも、老体に鞭打って、新鮮な空気を吸う。
ぶつかったり仲直りしたり、人と人が一つ屋根の下で暮らす。
そして少しずつ距離が縮まり、木の年輪のように愛は育っていく
一人の人間を心から好きになることは、一生の仕事だ。
ふたりで朝の散歩と称し、人の少ない道を歩く。
ただ昇る朝日を見ているだけで、なんとなく幸せな気分になる。
それはそばに妻がいるからだと、私は知っている。
子は親を、いつしか越えていく。
親鳥は毎日、巣にエサを運びヒナの命をつなぐ。
身を挺して天敵を追い払い、雨の冷たさを一身に受ける。
そして巣立ちを迎え子は飛び立っていくのだが、ただそれだけのことだ。
しかし人間は意味を考えるから、 結局はふたりなんだねと肩の力を抜く。
出会った頃のように新鮮に、老いてはしまったけれど、もう少しね。
気持ちのいい風に吹かれて、一日の終わりを妻と語り合う。
するとまた、笑顔で明日を迎えられるような気がする。
いつもの見慣れた景色、いつもの生活、当たり前が明日も続きますように。
一人で生まれてきたという事実があり、記憶はない。
一人で死んでいくと分かっていて、認識しようがない。
すべては無に帰すという真理が、ただ横たわるだけである。
そうであればこそ、愛する者たちの幸せを願う。
だからこそ今日を愛する人たちと過ごす。
今日をやり切ったという満足に、明日を託す。
ファイト!