折り句で泣く!? [ことば]
折句(おりく 英:acrostic)とは、ある一つの文章や詩の中に、別の意味を持つ言葉を織り込む言葉遊びの一種。句頭を利用したものがほとんどである。 (ウィキペディア)
伊勢物語の東下りは必ず高校の授業で扱うが、折り句には私もこだわります。
こういうパズルのようなゲーム感覚で言葉遊びをするのが好きです。
そこで歌われたのが以下の有名な句です。「かきつばたといふ五文字を、句の上に据ゑて、旅の心をよめ」といひければよめる。
からころも
きつつなれにし
つましあれば
はるばるきぬる
たびをしぞおもふ
しかしながら、個人的には谷川俊太郎の詩の方に軍配を上げており、いつかはそこへと行き着きたいと考えております。直接は言わない「あいしています」なんてステキで、あこがれます。
あくびがでるわ
いやけがさすわ
しにたいくらい
てんでたいくつ
まぬけなあなた
すべってころべ
卒業式に配られる「PTAだより」、そこには卒業担任と学年主任、校長の文章が載ります。「贈る言葉」と総括してあります。積極的に書きたがる方々はおりません。だから月並みな言葉で終わるのでしょう。私はそれがイヤで、学年を持ったらそれを書くことを楽しみにして、積極的に書きたがるようにしています。
本校で書くのは3回目になりますが、毎回、折り句にしているのでした。今回は横書きだったので、段組の構成を聞き、横何字ですか、縦何行ですかと、フレームを確定します。26字×21行。「たとえなにがあろうともくじけませんように」と、2行目からの行頭に書き、最後の546文字目に句点(。)を打ち、それから書き始めるのです。縛りがある中で、違和感を可能な限り排除して、文章を書く楽しさがあります。今回は2時間半かかりました。
出来上がったものを、奈良女子大希望の娘に「違和感ないか読んでみて」と渡したら、「おーっ」と、すぐに折り句に気づいてくれました。アンポンタンは一生気づきません。「でさあ、違和感がないか読んでよ」と渡して、他のことをしながらふと彼女を見ると泣いているのでした。驚きで尋ねると、「感激した」と言います。
こちらの狙いとはちがう感想なので、よそのクラスの明治大学希望の娘に渡し、「このシミはよだれではなくて涙なんだけど、Nさんの反応がおかしいと思う、違和感があるか読んでみて」と渡して、授業準備を取りに職員室に戻りました。再び、明治娘の所に戻ると、あろうことか、彼女も泣いているではありませんか。
明治娘は、「これ七美の最後の手紙でしょ」と言う。映画、もしくはアニメの『僕等がいた』のことだけど、「ねえねえ、左端の文字を縦に読むの、気づかなかったの?」と言うと、数秒後、覗き込んでいた娘が、「わぁ、先生、あったまイイ-」と言います。むむむぅー。
自分の遊びに合わせろとは言いませんけれど、センター対策ゲームにばかり打ち込んでいると、どうも考えない人間を生み出すというか量産しています。こういう遊びを楽しむ変った奴が、もっと出てきていいレベルの学校なんですが、何かしょうもないものに追い立てられているのかも知れません。
今回は、もちろん贈る言葉ですが、映画『僕等がいた』の七美の独白部分、ちゃんとメモを取っていましたから、それらのフレーズをモザイクのように組み合わせて、少し私のメッセージも組み込んで仕上げたのでした。だから、何時もの倍の時間がかかってしまいましたけれど。卒業式に受け取って、何人が折り句に気づくことでしょうか。国語教師の試練でもあります。
『僕等がいた』
たとえ何があろうと負けませんように。それが祈りでし
た。何度泣いても、何度ぶつかっても立ち上がる強さ。ふ
と立ち止まったとき、永遠などないと知ってしまって、叶
えられない夢を見失いそうになる。そのとき心の中に温か
な励ましの声が聞こえる。あの頃、たしかに私たちはここ
にいた。そのぬくもりを頼りに、未来へ歩んでいく。記憶
が思い出に変わる瞬間を私は知っています。どうかずっと
あなたに、その思い出がやさしくありますように。見てや
ろうとする未来が何も答えてくれないこともあります。そ
ういうときにも、思い出はいつもやさしいのです。私たち
とここで過ごした時間、あの頃のあなたたちは、眩しい光
も放ちながら、語りかけてくるのでしょう。どうか守って
くださいという祈りに、ただ一つだけの答えを示し、しく
じりや間違いを咎めることはないのです。キミの人生は、
けれど、支えなければならない現実はいつも大きい。この
ままでは不足だけど、既に旅立つ身。人生で出会う人が、
せめて温かい人たちでありますようにと願うしかできませ
ん。神様どうか彼らを守ってください。負けない人である
ように、心を強く持たせたつもりです。それでも、泣きそ
うになれば、いつでもここを頼って帰ってきなさい。ここ
にこそ、あなたたちだけの確かな思い出があるのだから。
『僕等がいた』は前編・後編各2時間、もういちど見直すには時間がないので、先日WOWOWで放映されたのを珍しくDVDに保存しました。その映画を見ると、少し面白い現象が老いた心の中にもわき上がるのですから。
これも「僕等がいた」
だから僕等にファイト!
2013-12-08 04:00
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コメント(5)
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生徒を文章で泣かせる。素晴らしいです。
これくらい全力を尽くしてもらうと生徒は伸びるし感動するんでしょうね。
ありがとうございます。
by muk (2013-12-08 04:49)
ティファニーで笑顔を。
プレゼントでしょうか。
とても嬉しそうで晴れやかな笑顔です。
段落も改行もない超不自然な国語教師の送る言葉。
折句に気がつくのかつかないのか、そんなお遊びを織り込み愉しむ。
国語教師からの最後のプレゼントですね。
by あるいる (2013-12-08 06:20)
すごい!おもしろい!感動するよ〜♪
素晴らしいプレゼントやね!
僕らがいた・・・・観たよ〜♪^^
by hatumi30331 (2013-12-08 07:03)
折り句は、あらかじめ決められた、しり
とりのようなものですね。昔の人はこんな風流を愉し
みながら文字を連ね、文脈を展開させて
いたんですね。文字数の縛りがあると難しさ
は増しますね。そして結末をどうお
ちつかせるかも見えづらい。最後の一行を書くまで
は、どんな風に終わらせればいいのか、あ
ちらこちらと書いてみないとわからない。
お粗末。
藤色のワンピースにティファニーブルーがとても合っています。
by cafelamama (2013-12-08 07:05)
遅ればせながら、29回目の結婚記念日おめでとうございました。
匠のこだわり、とくと拝見しました。ここまで入魂してもらえる生徒達は
幸せもん。最近よく言われる若者の承認願望とやら、これならそれ
どころの騒ぎではなくなります。
そして決してなくならないのが、このお店をあの袋と共に出て来る
世の女性達の満面の笑顔。その笑顔の返礼に心躍るも、やがて
ティファニーで硬直を、となってしまうか!?世の男性陣。
by Lonesome社っ長ょぉ〜 (2013-12-08 22:09)