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『私の探偵小説』   [読書 本]



毎日、ずっとずっと一緒だった絶対恩師・上迷が、「チャック、おもしろい本があったぞ、読んだか」。そう言ったのが1978年5月、安吾の風変わりな文庫本だった。ここに収録されている芥川賞の選後評で、松本清張の未来を読み取った表現があり、そこを朗読してくれたのだった。そのころ私たちは、読書会のようなことを毎晩、未明まで続けていた。

今回、図書館で借りたこの文庫を、長女がチェックして、「あれ? また読むの?」と尋ねる。今年の春先、大学院がなかなか決まらず、就活も同時進行していた娘が、ちょうど松本清張にハマっていたので、絶対恩師が私に朗読してくれた箇所を「読め」と、持っていた文庫本を送った。

去年、開放講座で、この文庫にある「新人へ」という3頁ほどの箇所を使ったが、未だに新鮮に思える。そして読み返すたびに、恩師と会話していた熱いモノが甦るのだった。運転免許取得のため札幌に来ていた長女も、明日は東京に帰り、いくつかの学会発表に参加して、20日ドイツへ渡る。なんだか父も複雑な心境で、もう少しだけ、娘と話していたい気もするし、亡くなった恩師と会うために文庫本を読み返すのだ。




『私の探偵小説』 坂口安吾/角川文庫 (昭和53年/1978年 5月20日 初版発行)
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p189
『或る小倉日記伝』は、これまた文章甚だ老練、また正確で、静かでもある。一見平板のごとくでありながら造形力逞しく底に奔放達意の自在さを秘めた文章力であって、小倉日記の追跡だからこのように静寂で感傷的だけれども、この文章は実は殺人犯人をも追跡しうる自在な力があり、その時はまたこれと趣きが変りながらも同じように達意巧者に行き届いた仕上げのできる作者であると思った。







後に推理小説に「社会派」と呼ばれる位置を作り、多くの作家に影響を与えた巨人の「未来」を予見する安吾の文章を、何度もしみじみと読んだ記憶がある。そんなことを思い起こしている。

慧眼の絶対恩師に、表現と質問内容で三度叱られたことがあり、そのうちの一つが「先生の好きな作家坂口安吾」という表現、もう一つが「先生も小説書けば良いのに何で書かないの」、これには激しく怒られて、二度と口にはしなかった。

村上春樹の写真を見ていると、鼻筋も違うし、眼鏡もかけていないし、全く似ていないのだけど、それでも安吾に雰囲気が似ていると、いつも思ってしまう。





気分がバラバラなのは、感傷かも知れない。インカレの時期にはこうなるんだな。


2012年9月7日、インカレ水泳の初日、絶対恩師との再会は実に10数年ぶりだったろうか。長女と一緒に、杉並にある入院中の病院を見舞い、部屋に入るなり、叱られたのだった。「一を聞いて十を知ったつもりになって、教師の悪しきサガ。恥を知れ」と。昔と全く同じ状態がそこにはあった。私はいつでも上迷に叱られていた。嬉しかった。そしてその翌日、長女は留学先のスイスへ飛び、私はふたたび上迷の見舞いに行くのだが、それが最後の別れとなった。

「相談したいことがあるのです」、と3年前には言えなかった。
いつでも自分で考えて、自分で答えを出すしかない。

午後は自転車で、長女の好きなワサビ味の豆を買いに行く。
二日酔いでもないのに、今日は頭の中がバラバラだ。・・・ファイト!





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ファイト! 62

コメント 3

hatumi30331

自分の本音を誰かに・・・
吐露できるようになると
楽になって行く自分を感じることが出来ます。

自分にも優しくなって行く時期かもね。

今日は冷たい雨の大阪です。
国体の時期はどうかな?
いいお天気が続くといいね。

by hatumi30331 (2015-09-06 13:22) 

あるいる

「相談したいことがあるんです」と相談できる人をうらやましく思えるときがあります。
「自分のことは自分で」が基本の七人の子沢山の貧乏所帯で育った末っ子は、誰かに相談することができない大人になってしまいました。
相談することで相手に荷物を押し付けるような気持ちになり、僕ごときのために相手の貴重な時間をも奪うように思え、可愛い気のない大人の出来上がりです。
ただいまの目標はかわいげのあるおっさんなのですが、無い袖はどうも振れないようです。
もの思う秋、いつのまにか始まっています。
というか、お粗末ながらもそれなりに思うのは秋に限らず一年中のコトでした。

by あるいる (2015-09-06 15:43) 

Lonesome社っ長ょぉ〜

そろそろ読書も再開せねばと本屋を訪ねる事が多くなりましたが、手ぶら
で出てくることの繰り返しです。そんな先週末、急に生牡蠣が食べたく
なって階上の店へ。北海道と岩手産の食べくらべ、ぷりぷりミルキーの
大粒で旨かったのでした。
by Lonesome社っ長ょぉ〜 (2015-09-06 22:01) 

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