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『シューカツ』   [読書 本]




あ、それ私2回読んだ、と次女が言った。
図書館出張所の「本日返却分」の棚にあった、『シューカツ』という本である。
少しばかり気になるタイトルで借りたのだが、しかし作者の石田衣良は嫌いだった。

直木賞作家にエラそうには言えないが、ふんわりと優しげに装う姿勢が気に食わなかった。
ずっと昔、受賞後だと思うが、銀座に構えたご自身の事務所で対応する、その姿勢に反感。
「文士たる者」と、作家に気骨を求める無頼派志向の私には、許せない軟弱姿勢だった。

作家は作品で判断しろ、内なる声が聞こえ抑制するのだけど、生理的反感は消えない。
何を狂ったかテレビに出まくり、無知をさらけ出し、漢字も言葉も知らない。
えっ? それでアンタ小説家でっかいな、とずっと思い、偏見は傾斜を深める。


『シューカツ』 石田衣良/文藝春秋 (2008年10月10日 第1刷発行)
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p40
「えー、非正規社員の生涯賃金は一億円に届きません。九千七百万くらいかな。それに対して、大企業の正社員なら、まあ二億から二億五千万円はいきます。同じように六十歳まで働いて、倍以上の差がつくのです。みなさんも来年の春には就職試験を控えているわけですが、新卒のゴールデンチケットをしっかりとつかみとってきちんと就職してください。日本ではチャンスは実質一回きりしかないのです」
 ざわざわしていた階段教室が、生涯賃金の話になったとたん静まり返った。
こういう試算はよくある。そして、だから大企業だ、できたら公務員だと、おじさんは子どもに期待してしまう。しかしながら、拓銀もつぶれたし、山一證券もないし、国鉄も解体し、ソ連も崩壊した。江戸幕府だって消えてなくなってしまったではないか。未来永劫、つづき続ける「絶対安心」はないわけで、これだけ変化が加速している時代なら、変化への対応能力を高めて、あとは悔いのないように、心の声に従うことだ。次女よ、そのうえで、将来の設計を作るのだね。お父さんは応援しているよ。ファイト!



p227
 目をあげると厳しいほど澄んだ冬空のした、一次面接の会場になる多目的ホールの屋根が三角形にとがっていた。
こういう気取り先行の文章が好きになれないのでした。雰囲気を出したいのはわかるけれど、「厳しいほど澄んだ冬空」がよくわからなくなってしまう。「下」を「した」と表記したことも、不明。ときどき、集中力を欠いたように、こういう文章が登場し、混乱する。



p304
千晴が選んだのは、良弘の番号だった。男子学生がでると千晴は叫んだ。
3~4回こういうことをしてくる。主人公が落ち込んだりして、思いを寄せてくる良弘に携帯で電話を掛けるこのシーンも、「良弘」を「男子学生」に変える理由がわからない。『羅生門』をつかって、小説基礎を教えているときも、「下人」が「一人の男」に表記が変わるる。こういう、人物の呼び方を具体から抽象に変化させるのは理由があって、場面転換の暗示や、緊張感作成や、「登場人物を突き放して客観的観察を加える」などだけど、石田氏の作品で、そういう効果が深読みできない。ただ、錯乱とは言わないが、集中力の低下があり、好まない癖である。



現在、心理的に、青春小説を求める時期だから、「うん、おもしろかった」という感想かな。まあ、エピローグなどは鼻持ちならない石田氏らしい気取りだったけれど。まだまだずっとずっと、ピース又吉の『火花』のほうが作品レベルは高い。活字の漫画を読んだ、というところだろう。コミックの時代に好まれる作家なのかもしれない。以上、オシマイ、の石田氏でした。

あーあ、「口直しに」と、同じ直木賞でも違いを見せる東野圭吾に戻ることにしよう。
午後の札幌は雪。


ファイト!






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コメント 2

hatumi30331

休み休み・・・
早く打てなくなったキーボードでリハビリ中。へへ;

今日は朝から掃除して・・・・汗かいたよ。

気持ちいいけど・・・・神経使いながら動くと脳が疲れるのよ。
休憩しながらしてるから大丈夫。

いつもありがとう。^^
by hatumi30331 (2015-11-21 08:42) 

あるいる

石田衣良さんの読者層はかなり若い方たちを想定されているはず。
そして、ベストセラー作家になるための市場調査を重ねているハズと勝手な推測です。
すらすらと読み流しやすい文章と、少しだけ時代の上澄みを取り入れたちょっとお洒落な若者に受けそうな思い入れたっぷりの気取った表現は、エンタテイメントと雰囲気優先の読者層には受けるのかもしれません。
クラシック音楽好きな果物屋の息子が主人公で登場する池袋ウエストゲートパークのシリーズはそれなりに面白いエンタテイメントですが、読後になにも残らないのは彼の他の作品と同じです。
というコトで、なにも考えずに読み流せばいいのですが、費やした時間を返せと思いたくなるときが多々ありました。
志茂田景樹の21世紀ヴァリエーションかもしれないと勝手に決めていますよ。
NHKのクラシック音楽入門的番組でホストをつとめていましたが、解説と分析役をするプロの音楽家のホステスには太刀打ちできない半端なコメントが、僕のような音楽素人にはピッタリで面白かったですよ。
口直しに町田 康です。

by あるいる (2015-11-22 03:43) 

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